目が覚めて寝室のカーテンを開けると、青空のもと視界いっぱいにお隣さんの畑が広がります。
大きな和風建築の一軒家が点々とあって、電線の向こうにはなだらかな山々。数日前まで見ていた公園の景色も愛着がありましたが、この眺めも毎日愛でることができそうです。
両開きのカーテンが寝室に2つ、リビングに3つ、ダイニングに4つ、キッチンにひとつ。
カーテンを一枚一枚開けて、朝を確かめていきます。今までは片開きのカーテンを一枚開ければ、部屋いっぱいに光が注ぎ込んできたので面倒ではありますが、広いワンルームを明るくするためには致し方なし。
いつか面倒になって、ボタンひとつで全部開けばいいのにと思う日が来るかもしれないけれど、今のところこの作業も嫌いではありません。
自治会の班長さんを紹介してもらうことになっていたので、羽田空港で慌てて買った東京土産を持って、まずは売主さんのところへ挨拶に行くことにしました。家の前の道を南に向かって歩いていくと、曲がり角に建つ家の軒下で男性がタバコをふかしています。
念のため道が合っているか尋ねようとしたら、それよりも早く大きなゴールデンレトリバーが私に向かってけたたましく吠え始めました。ひぃぃ。男性は吠える犬をいなし、道が正しいことを教えてくれました。
売主さんは畜産業を経営していて、数十頭の黒牛を飼っていると聞いていました。木漏れ日が差し込む道を歩いていくと、突然開けて家と牛舎が見えてきます。
売主さんに会う前に、ちょっと牛にご挨拶と近づいていくと、低音のホルンのような鳴き声で、一斉に威嚇を始めました。
そんなつもりではないと伝え、家のほうに赴きチャイムを鳴らしましたが、どうやら不在のようです。
すると、教習所で習った何らかの小型特殊自動車に乗った売主さんが、こちらに笑顔で手を振りながら現れました。既に知っている人が、ご近所にいるのは安心です。
車を乗り換えて、世間話に花を咲かせながら班長さんの家にたどり着くと、ここにも牛が一頭。
私に向かってホルンの音を奏でますが、大群でなければ、恐怖心を好奇心が乗り越えます。
売主さんがチャイムを鳴らしている間にまじまじと見ると、澄んだ瞳と口元の涎が輝き、何を食べているでもないのにむしゃむしゃと口を動かしています。
のどかな日常の話でした。
こちらからは以上です。ありがとうございました!