現在の公的年金制度は2004年に大きな改正が行われました。
それは「向こう100年間の収入合計をまず決め、その収入合計と一致するように給付の水準を自動的に調整していく」というやり方。
現役世代の負担する保険料をこれ以上無制限に増やすのではなく、年金を受け取る世代への支払額も調整しようということ。
これは、少子高齢化の進展によって若い人の負担が大きくなりすぎないようにするために、現役世代も年金受給世代も双方で痛みを分かち合うようにしようということなのである。
よく話題になる「マクロ経済スライド」によって給付の調整をするというのも、この考え方に基づいている。先ほど年金支給の原則は物価賃金に連動するということを言ったが、「マクロ経済スライド」というのは、期限を区切って、物価賃金の上昇よりも給付を少し少なめにするということである。
「向こう100年間の収入合計をまず決める」ということは給付に回す全体の予算、すなわちパイの大きさが決まっているということ。
なので、できるだけ厳格に、そして早い時期にマクロ経済スライドを適用して給付額を少なくすることで、それによって余った部分を将来の高齢者に回すことができるようになる。
何しろ固定された年金保険料というパイの大きさは決まっているわけなのだから。
ところが、マクロ経済スライドによる調整は、前年度の年金給付の水準を下回らない範囲でしか行えない「名目下限ルール」があるために、なかなか発動できない状態が続いており、過去には3回しか実施されていない。
実際、これを厳格に適用しようとすると、「高齢者の年金をカットするな」とか「年寄りいじめ」と言って野党やメディアが騒ぐからだ。
さらに野党だけではなく、選挙における票を失いたくない与党もこういう痛みを伴う制度の適用はあまり積極的にやりたくない。
今回の一律支給というのも、そう考えると選挙のための人気取りという面があながちないともいえなさそうだ。
もちろん受給者にとっては、支給される年金は多い方がよいのは当たり前だが、少なくともデフレや低インフレの時であればそれほど生活に大きな影響を与えるわけではない。
ルールに沿って適用していかないと、将来世代の給付に大きな影響が出かねない。
この問題は「今食べてしまって将来飢える人が出てくるのもやむなし」とするのか、そうではなく、「今食べる分を少し我慢して将来の子供や孫の世代に取っておいてあげる」のか、どちらを選ぶべきかが問われていると思います。
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