○今回は住宅ローン控除と医療費控除を同時申請する場合の話です。
住宅ローン控除と医療費控除の税金の仕組みを説明します。
1 医療費控除とは
2 住宅ローン控除とは?
3 医療費控除と住宅ローン控除の違い
4 医療費控除と住宅ローン控除を同時に確定申告したケース
一定の条件を満たしてマイホームを購入すると、「住宅ローン控除」が受けることができます。
住宅ローン控除を受けることができれば、所得税・住民税の節税が可能です。
また、医療費控除を受けることで、更に大きな節税効果が期待できるでしょう。
住宅ローン控除や医療費控除の仕組みや実際にどれくらいの節税効果を得られるのかについて解説していきます。
○医療費控除とは
医療費控除とは、病院での入院費用や診察料、手術費用、薬代、出産費用、接骨院での施術を行なった際の治療費、通院の際に利用する電車賃やバス賃、
タクシー代などの交通費(ガソリン代については対象外)など、普段の生活の中で支払った医療費が、年間で一定額を超えた場合に所得控除が受けられる制度です。
ここでは、医療費控除の対象となる薬品や利用する際の要件、実際に利用した場合の計算方法を見ていきます。
(1)医療費控除とは
医療費控除は上記の通り、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に所得控除が受けられる制度です。
対象となるのは、自分自身だけでなく、「生計を一にしている(自分自身と同じ生計で暮らしている)」家族の医療費についても対象となります。
医療費控除を受けるためには、どのような薬品が対象になるのか、受けるための要件にはどのようなものがあるのかを把握しておきましょう。
①対象薬品
医療費控除が受けられる医薬品は、基本的に医師が作成した処方箋に基づいて薬局で購入したものや、
処方箋なしに自分自身で購入したものであっても治療や療養を目的とした医薬品であれば対象になります。
ただし、医薬品であっても医療費控除の対象とならないものもあるので注意が必要です。
例えば、医薬品に該当するビタミン剤や漢方薬であっても、その目的が疲労回復や健康増進、病気の予防など、治療に直接関係するものではない場合には、医療費控除の対象とはなりません。
また、処方のない目薬や湿布薬についても同様です。
それでは、医療費控除の対象となる医薬品に該当しないものを購入した場合、税制上の優遇が受けられないのでしょうか。
医療費控除の対象となる医薬品以外であっても、「健康の保持増進や疾病予防に関する一定の取組」を行っている方が、
「スイッチOTC医薬品(医療用医薬品から薬局・ドラッグストア等で購入可能な医薬品に転用された医薬品)」を購入した場合、セルフメディケーション税制を受けることができます。
②利用時の要件
医療費控除を受ける要件としては、1年間に医療費として支払った額が10万円を超えている場合です。
ただし、給与所得などの合計が200万円以下場合には、総所得金額の5%を超えると医療費控除を受けることができます。
また、医療費として支払った額は、支払った個人だけでなく「生計を一にする」配偶者やその他親族のために支払ったことが要件です。
それらの合計額が10万円を超えれば利用要件を満たすことになります。
対象期間は、利用する年の1月1日から12月31日までに支払った医療費となり、未払いの医療費に関しては実際に支払った年の対象となります。
セルフメディケーション税制についてはスイッチOTC医薬品が対象となり、世帯での購入金額の合計が1万2,000円以上の場合に利用することが可能です。
その際には、購入時のレシートや利用する年に一定の取組を行っていることを証明する、
健康診断や予防接種の領収書または診断結果を保存しておいてください。
(2)実際に利用した場合の税金の計算方法
医療費控除やセルフメディケーション税制について理解していただけたでしょうか。
ここからは、実際に利用した場合の税金の計算方法を見ていくことにしましょう。
①所得税
医療費控除によって所得税がどれくらい還付されるのか、実際にシミュレーションしてみることにします。
まず、医療費控除の基本的な計算式を確認しておきましょう。
「実際に支払った医療費ー補てん金」ー10万円または総所得金額の5%=医療費控除額
ここで言う補てん金とは、生命保険や損害保険で補てんされる保険金を指します。
この計算式をもとにシミュレーションを行います。
条件は以下の通りです。
実際に支払った医療費:50万円
補てん金:25万円
総所得額:500万円
各種所得控除額:200万円
それでは、医療費控除額を計算してみましょう。計算式に上記の条件を当てはめていきます。
50万円(実際に支払った医療費)ー25万円(補てん金)−10万円=15万円(医療費控除額)
これで、医療費控除額が計算されました。
ここからは、医療費控除を受けた場合の還付金額を計算します。
そのために、まずは所得税率を確認しましょう。所得税率は、課税所得額をもとに確認します。
課税所得額は、総所得額から各種所得控除額を差し引いたものになるので、今回の場合「500万円(総所得額)ー200万円(各種所得控除額)=300万円(課税所得額)」です。
以下の所得税率の表で確認してみましょう。
金額は1,000円未満の端数を切り捨てています。
課税される所得金額
税率
1,000円から1,949,000円まで
5%
1,950,000円から3,299,000円まで
10%
3,300,000円から6,949,000円まで
20%
6,950,000円から8,999,000円まで
23%
9,000,000円から17,999,000円まで
33%
18,000,000円から39,999,000円まで
40%
40,000,000円以上
45%
出典:国税庁
課税所得額が300万円ですので、上記の表から所得税率は10%であることが分かります。還付金の計算式は、「医療費控除額×所得税率」です。
このシミュレーションの場合、「15万円(医療費控除額)×10%(所得税率)=1万5,000円(還付金)」となり、1万5,000円が手元に戻ってくることになります。
②住民税
続いて、医療費控除を利用した場合の住民税の計算です。
医療費控除を受ける場合、確定申告を行います。
確定申告をすると所得税だけでなく、住民税も軽減されるので、住民税のための追加手続は必要ありません。
所得に関する住民税の税率は、都道府県民税・市区町村民税の合計である10%となるため、医療費控除額の10%にあたる金額が軽減されます。
住民税は所得税のように還付されるのではなく、医療費控除を受けて減額されたあとの税額を納めることになることを覚えておきましょう。
○住宅ローン控除とは
住宅を購入する際に、住宅ローンを利用した購入者の金利負担を軽減することを目的とする制度です。
住宅ローン減税とも言います。
ここでは、住宅ローン控除制度について解説するとともに、実際に住宅ローン控除を利用した場合の税金の計算方法をシミュレーションしてみましょう。
(1)住宅ローン控除とは
住宅ローン控除とは、正式名称を「住宅借入金等特別控除」と言い、住宅の購入費用として住宅ローンを利用した方の金利負担軽減を目的とした制度です。
購入する住宅は新築住宅か中古住宅かを問わず、リフォームやリノベーションなどの改修工事を行なった場合にも利用ができます。
2021年(令和3年)までは、毎年の住宅ローンの残高(最大4,000万円)の1%にあたる額が10年間、所得税から差し引かれていました。
また、住民税についても「前年度課税額×7%」が控除されていました。
しかし、各金融機関の住宅ローン金利が低下し、1%を下回る住宅ローンが珍しくなくなり、「逆ざや」現象が起こるなどの背景を受けて2022年度税制改正が行われ、以下のように変更が行われています。
所得税の控除率が1%から0.7%に変更
住民税の控除率が7%から5%に変更
−控除年数
新築住宅の場合、10年から13年に延長
中古住宅やリフォーム等の場合は10年のまま変更なし
−借入限度額
4,000万円から3,000万円に変更
−所得制限
3,000万円以下から2,000万円に変更
参照:国土交通省
次に、住宅ローン控除を受けるための条件は以下の通りになっています。
②住宅ローンを受けるための条件
−住宅ローンの返済期間が10年以上
10年以下の場合は、適用が受けられません。
また、返済期間が10年以上であった場合で
も、繰上返済などによって10年未満となった場合は、その時点で利用ができなくなります。
−自ら住むこと
減税を受けようとする方が自ら住むことが必要です。投資用マンション等の場合には適用されないので注意が必要です。自ら住む場合でも、入居時期が定められているので、注意してください。
−床面積が50㎡以上
マンションの場合は、占有部分の床面積で判断されます。階段や廊下などの共有部分は含まれないことに注意しましょう。
−居住用割合が1/2以上
自宅を事業に利用している場合には、居住割合が1/2以上必要です。
−合計所得金額が2,000万円以下
上記の通り、2022年度税制改正を受けて合計所得が2,000万円以下の方のみ受けられることになりました。
合計所得が2,000万円以上になった年については、控除が受けられませんが2,000万円以下の年は控除を受けることができます。
また、住宅ローン控除に似た制度として、「特定増改築等住宅借入金等特別控除」があります。
住宅ローン等を利用して一定のバリアフリー改修工事や省エネ改修工事を行なったケースでは、住宅ローン控除と同様に所得税額から一定の金額を控除できる制度です。
控除期間は5年間となっています。
参照:国税庁「マイホームを持ったとき」
(2)実際に利用した場合の税金の計算方法
住宅ローン控除制度の仕組みや、
2022年度税制改正後の変更点についてご理解いただけたところで、ここからは実際に住宅ローン控除を利用した場合の税金を計算してみましょう。
①所得税
実際に住宅ローン控除を利用した場合、どれくらい控除されるのかをシミュレーションしてみます。
まずは、住宅ローン控除の基本的な計算式を確認しておきましょう。
住宅ローン残高×0.7%=住宅ローン控除額
この計算式をもとに、住宅ローン控除のシミュレーションを行なっていきます。
シミュレーションの条件は以下の通りとします。
購入価格:5,000万円(うち建物3,000万円)
返済期間:30年
年収:500万円
各種所得控除額:200万円
それでは、住宅ローン控除額を計算していきましょう。
前述の計算式に当てはめていきましょう。
3,000万円(住宅ローン残高)×0.7%=21万円(住宅ローン控除額)
この21万円が控除額となります。
所得税額は、課税所得額×税率で求められるので、上述の医療費控除から算出した金額をこちらでも利用します。
300万円(課税所得)×10%(税率)=30万円(所得税)
算出した所得税30万円から、住宅ローン控除額21万円が差し引かれ、所得税は9万円となります。
新築住宅の場合、11年目から13年目に関しては、上記の計算式の他に「建物の取得価格の2%÷3」の計算を行い、どちらか大きい金額が採用されることになるので注意が必要です。
②住民税
続いて住民税の計算をしていきましょう。住宅ローン控除は、先に所得税から差し引かれることになり、
所得税だけでは控除できない場合には、翌年の住民税からも差し引かれることになります。
その際の計算方法は、所得税の課税所得金額等の5%(上限9万7,500円)の範囲内で住民税から引かれることになります。
もし、1年間で所得税を7万円、住民税を18万円納めている方の場合で、住宅ローン控除額が30万円だった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、住宅ローン控除額が30万円で、所得税と住民税の合計が25万円となるので、全額控除されそうに思われます。
しかし、住民税の控除額は上限が9万7,500円と決まっているため、所得税の10万円に住民税の控除上限額9万7,500円を合計した19万7,500円が実際の控除額となります。
住宅ローン控除額が大きい場合でも、全額が控除されない場合もあるという点には注意が必要です。
もし良かったら、これから始まる確定申告の参考にされて下さい♪
こちらからは以上です。お読みいただき、ありがとうございました😊