オミクロン株の派生型「XBB.1.5」にワクチンは有効?:新型コロナウイルスと世界のいま(2023年1月)
PHOTOGRAPH: CFOTO/FUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES
 
 

オミクロン株の派生型「XBB.1.5」にワクチンは有効?

新型コロナウイルスと、これから世界について

新型コロナウイルスの扱いを変えようとする動きが、日本や米国で相次いだ1月。米国で蔓延するオミクロン株の派生型「XBB.1.5」に対するワクチンの効果や、自己免疫疾患と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係に関する論文も学術界では発表された。これらの最新情報と共に、この1カ月の新型コロナウイルスに関する動きを振り返る。

都市封鎖などの厳しい措置によって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延を逃れていた中国が、2022年12月に突然規制を緩和してから約1カ月。23年1月31日に発表された世界保健機関(WHO)の報告によると、中国での感染者数の累計は1億人に迫り、死者は11万人を超えたという(累計で9億人とする北京大学の研究チームの推計もある)。しかし、規制緩和による巨大な感染拡大の波は23年1月末時点で収束しており、中国は束の間の休息を得ることになる。

こうしたなか、世界では新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の扱いがどんどん変わっていっている。欧米諸国ではマスクや隔離期間、ソーシャルディスタンスといった規制がすでに撤廃されているが、日本政府もこの流れに合わせて23年5月からCOVID-19をこれまでの「2類相当」から「5類」に移行する方針を正式に決定した。実行されれば、COVID-19は季節性インフルエンザなどと同じ扱いになる。

また米国のバイデン政権も1月30日、新型コロナウイルスをめぐる「国家非常事態宣言」を5月11日に解除することを発表した。これにより、米国ではこれまで政府の負担によって無料だったワクチン接種や検査費用は、保険加入者を除いて全額負担となる。

1月は新型コロナウイルスに感染後の自己免疫疾患の発症率や、オミクロン株の派生型「XBB.1.5」に対する2価ワクチンの効果も発表された。新型コロナウイルスと世界のいま、今月の動向を振り返ろう。

BA.5と従来株の2価ワクチンは「XBB1.5」にも有効

米疾病管理予防センター(CDC)は、ファイザー製およびモデルナ製の2価ワクチンが米国に蔓延しているオミクロン株の派生型「XBB」と「XBB.1.5」についても発症抑制効果をもつと発表した。22年12月1日から23年1月13日にかけて米国全土の薬局から得られたデータを分析したところ、2価ブースターワクチン(「BA.5」と武漢で見つかった従来株に対応したもの)の感染予防効果は、XBBおよびXBB.1.5とBA.5においてほぼ同じであることが示されたという。

なお、この分析において、従来株に対応した1価ワクチンをブースターとして追加接種した場合の発症予防効果は、BA.5の場合は18〜49歳で52%、50〜64歳で43%、65歳以上で37%だった。一方、XBBおよびXBB.1.5の場合は18〜49歳で49%、50〜64歳で40%、65歳以上で43%と、BA.5の場合とほぼ同じ感染予防効果がみられたという。

また、米国の薬局での検査データの解析結果から、過去に2〜4回の1価ワクチンを接種している人では、2価ワクチンのブースター接種によりXBB/XBB.1.5に対する感染予防効果が、少なくとも接種後3カ月間は得られることも明らかになった。

COVID-19が米国の若者の死因トップ10のひとつに

米国では94万人以上がCOVID-19で死亡しており、そのうち約1,300人が0〜19歳の小児および若年層だったという。『JAMA Network Open』誌に掲載された研究によると、米国の0〜19歳の層において、COVID-19は不慮の事故や暴行、自殺などを含む全死因のなかで8位、感染症または呼吸器疾患による死亡のなかでは1位であることが明らかにされた。

このデータは21年8月1日から22年7月31日の間に米国でとられたものだ。調査期間内では、COVID-19が小児および若年層の全死因の2%(821人)となっており、その死亡率は0〜19歳の人口10万人当たり1.0人だった。なお、インフルエンザと肺炎での死亡率は、合わせて10万人あたり0.6人である。

多くの感染症と同様に、COVID-19による死亡率は1歳未満の乳児で最も高く(10万人あたり4.3人)、15〜19歳で2番目に高く(10万人あたり1.8人)、5〜9歳の子どもで最も低かった(10万人あたり0.4人)。

 

なお、COVID-19の死因は10万人あたり1.0人で、全体の死因の8位だった。主な死因には周産期疾患(10万人あたり12.7人)、不慮の事故(10万人あたり9.1人)、 先天性奇形・変形(10万人あたり6.5人)などが含まれている。しかし、米国では子どもの死亡自体がまれであり、ここにCOVID-19がトップ10入りしている事実は、この感染症が普通の風邪のような無害な病とはほど遠いことを示している。

COVID-19と自己免疫疾患のリスク

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)への感染とその後の自己免疫疾患発症との関連を調べたドイツの研究で、新型コロナウイルスは感染後3カ月から15カ月後に、自己免疫疾患の発症リスクを約43%も増加させる可能性があることがわかった。また、すでに自己免疫疾患をもつ患者は、別の自己免疫疾患を発症する確率が23%増加する可能性が報告されている。

SARS-CoV-2に感染後、新たに発症した自己免疫疾患のなかで最も頻度が高かったのは甲状腺の病気で、感染経験のない対照群と比較して橋本病(慢性甲状腺炎)とバセドウ病の発症リスクがそれぞれ42%と41%上昇した。また関節リウマチ(42%)、シェーグレン症候群(44%)、1型糖尿病(25%)、セリアック病(55%)などのリスクも同様に上昇していた。

なお、発症頻度の絶対数は少なかったが、感染後に最も発症率が高くなったのは珍しいタイプの自己免疫疾患で、血管の炎症を伴う多発血管炎性肉芽腫症(151%)や、さまざまな臓器に肉芽腫ができるサルコイドーシス(114%)などが報告された。

ただし、この研究は20年12月31日までにSARS-CoV-2に感染した患者約64万人と、未感染者のコントロール群を1:3の割合で比較したもので、研究チームは両群を21年6月30日まで追跡調査したものだ。注意すべきところは、自己免疫疾患の発症率比較はパンデミック初期のワクチン以前のデータであり、ワクチンの副作用ではない点だ。なお、ワクチンがこれらの発症予防に役立つかどうかは不明のままである。

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世界の新型コロナウイルスへの対応は、目まぐるしく変化している。しかし、人間がどうウイルスを分類しようと、ウイルス自体の性質はあまり変わらないことは特筆すべき事実だろう。

SARS-CoV-2の感染力は強く、罹患した際の重症化リスクや死亡リスクも風邪に比べて高い。また、ほかのウイルスには見られない確率でかかる後遺症にも注意が必要となる。

SARS-CoV-2の変異株は、これからも世界に感染の波を引き起こすだろう。このウイルスの分類がどう変化しようと、ワクチン接種や発症時の自宅待機、換気などの公衆衛生対策がウイルスの感染を制限することが、重症化や死亡を予防する上で依然として重要な役割を担っていることに変わりはないのだ。

※『WIRED』による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連記事はこちら


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