国民年金から支給される老齢基礎年金、厚生年金保険から支給される老齢厚生年金などの、老齢年金の受給を開始できるのは、原則として65歳になります。
ただ、繰上げ受給の制度を利用すると、これらの受給開始を最大で60歳まで早められます。
この繰上げ受給を利用する場合は原則として、両者の老齢年金の受給開始を、一緒に早める必要があるため、片方だけを早めることはできません。
また繰上げ受給を利用した時の、1月あたりの減額率は0.5%になるため、60歳まで受給開始を早めた時の減額率は、30%(0.5% × 12月 × 5年)になります。
かなりの減額になりますが、今年(2022年)4月1日からは、1月あたりの減額率が0.4%まで下がるのです。
そのため60歳まで受給開始を早めた時の減額率は、24%(0.4%×12月×5年)に変わります。
ただ繰上げ受給の減額率が0.4%に下がるのは、1962年4月2日以降生まれの方になるため、これより前に生まれた方は引き続き、0.5%になる点に注意する必要があります。
繰上げ受給の年金は他の保険給付と併給調整があります。
(1) どちらかを選択するケース(例:遺族年金)
(2) 差額支給か支給されないケース(例:傷病手当金)
(3) 他の保険給付が優先されるケース(失業手当)
繰上げ受給の年金は他の保険給付と併給調整があります。
繰上げ受給の減額率の改正がもうすぐ実施されるため、ニュースなどを見ていると、これに関する意見が以前より増えているようです。
その中身を見てみると、「日本人の平均寿命は延びているので早くもらうのは損」や、「年金は将来的に減額していくので早くもらった方が得」というような、損得に着目した意見が多いという印象があります。
こういった点は大切なのですが、他の保険給付との併給調整という点にも、注意する必要があると思います。
また他の保険給付との併給調整は、次のような3つのケースに分けられる場合が多いのです。
(1) 繰上げ受給の年金と他の保険給付の、どちらかを選択するケース
(2) 繰上げ受給の年金と他の保険給付の、差額のみが支給される、または他の保険給付が支給されないケース
(3) 繰上げ受給の年金が支給停止になり、他の保険給付が優先して支給されるケース
他の保険給付を受給している方、または今後に受給する予定がある方は、繰上げ受給の請求手続きをする前に、この中のどれに当てはまるのかを、確認した方が良いと思います。
このブログでは、(1) どちらかを選択するケース(例:遺族年金)のみ解説します。
厚生年金保険に加入する会社員の夫や、老齢厚生年金を受給する夫が亡くなった時に、所定の受給要件を満たす場合、その妻に対して遺族厚生年金が支給されます。
また夫が亡くなった時に、繰上げ受給を利用した妻の年齢が65歳以上で、かつ「遺族厚生年金>繰上げ受給の老齢厚生年金」という場合、次のような年金が支給されます。
○遺族厚生年金(遺族厚生年金-繰上げ受給の老齢厚生年金)
○繰上げ受給の老齢厚生年金
○繰上げ受給の老齢基礎年金
遺族厚生年金として支給されるのは、遺族厚生年金と繰上げ受給の老齢厚生年金の差額のみになりますが、3つの年金を併給できるのです。
一方で夫が亡くなった時に、繰上げ受給を利用した妻の年齢が60~64歳の場合、遺族厚生年金か「繰上げ受給の老齢基礎年金+繰上げ受給の老齢厚生年金」の、いずれかを選択する必要があります。
また選択しなかった方の年金については、65歳になって併給できるまで支給停止になります。
例えば、遺族厚生年金に対して、中高齢の寡婦加算(妻が65歳になるまで支給)が上乗せされる場合、「繰上げ受給の老齢基礎年金+繰上げ受給の老齢厚生年金」より遺族厚生年金の方が、金額が多くなる場合が多いのです。
そうなると当然に遺族厚生年金を選択するので、繰上げ受給を利用した意味がなくなるのです。
年金制度はとても難しいため、年金事務所などでよく相談することをオススメします。
こちらからは以上です。お読みいただき、ありがとうございました!